2015年12月4日金曜日

ドクダミ(蕺菜)

●ドクダミには、それにふさわしい漢字が見当たらない
●日本の三大民間薬の一つ(ドクダミ、センブリ、ゲンノショウコ)
タイトルに「蕺菜(シュウサイ)」とありますが、これは中国語をそのまま載せています。この「蕺菜」で検索をすると、ヒットするのは主に中国語のサイトです。それほど「蕺」という字は日本では使われません。10世紀頃の日本では「ドクダミ」は「之布岐(シブキ)」と呼ばれていたそうです。「シブキ」は「渋い」という意味があるといわれています。名前が変わってくるのは江戸の後期あたりで、書物に「ドクダミ」と出てきます。名前には意味があり、それは漢字に変換できます。ところが「ドクダミ」の「毒」は分かりますが、「ダミ」が依然として正体不明のようです。

一例をあげると「毒矯め」、「毒痛み」、「毒溜め」、また「毒駄目」というのもあります。説明しますと最初の「矯め」は曲がったものを真っ直ぐにするの意味があり、転じて正常な状態に戻す=病を治すになります。「痛み」は毒や痛みに効くということ。「溜め」は「臭い匂いは毒を溜め込んでいるから」で、「駄目」は毒があるので危険だということでしょう。どれを見ても決定打に欠けるような気がしますが、今のところ「毒矯め」と「毒痛み」が有力候補に上がっています。これは「ドクダミ」の薬効が知られるようになったからだと思います。上記の名前の他には、「蕺菜」の発音から「十薬(ジュウヤク)」と呼ぶ場合もあり、これは「ドクダミ」の漢方薬名になっています。「十の病に効く薬」という意味ですが、さすがに言い過ぎです。

ちなみに中国では「魚鱗草」「魚腥草」と呼び、「腥」は生臭いという意味で、いずれも魚のような生臭い匂いのする草と表現してします。東南アジアでは「魚の野菜」で、英語だと「Fish mint」と呼ぶ場合もあるそうです。どうやら世界共通で「臭い=生臭い=魚臭い」というイメージがあるようです。

ドクダミ/ドクダミ科/ドクダミ属
写真:zassouneko

イヌタデ(犬蓼)

●「タデ」は「爛れる(ただれる)」

「タデ」は「爛れる(ただれる)」からきているという。そして「爛れる」は「直荒」からという。「直ちに(ただちに)」に「荒れる」ということらしい。「爛れる」は皮膚や肉が炎症をおこし破れたり、くずれてしまうことであるが、この雑草のどこにそんな力があるというのだろうか。

これは「タデ」の葉を食べると口の中が辛くて爛れるような刺激を受けるからである。ところが、うまく使えば「蓼酢」など調味料や、刺身のツマの「紅タデ」となる。「蓼食う虫も好き好き」とは、こんな刺激のあるものを、わざわざ選んで食べる虫もいることから、「好みは人それぞれ」の意味で使われる。

ところが日本にある20種ほどの「タデ」の中で、水辺に生える「ヤナギタデ」だけが辛いのであって、他はそうではないのである。人にとっての「タデ」の価値は辛さにあるのだから、それに値する「ヤナギタデ」を「マタデ(真の蓼)」「ホンタデ(本物の蓼)」と呼んで別格の扱いをした。だから「蓼食う虫も好き好き」の「蓼」は「ヤナギタデ」のことである。

「イヌタデ」の「イヌ」は役に立たないという意味である。だが昔の子供達は、この草の赤い実を「赤まんま」と呼んで、「おままごと(お飯事)」に使用して遊んだ。子供の役には立っている。

余談であるが「忠臣蔵」の舞台の「播州赤穂」の「赤穂」とは「紅タデ」の穂のことである。


イヌタデ(犬蓼)/タデ科/タデ属
写真:zassouneko

カタバミ(片喰)

●葉はハートを3つ並べた形
●片喰は「片一方を食べたの意味」

10世紀頃の書物に「加多波美」「加太波美」(カタハミ)とあります。「食む(はむ)」は「食べる」の古語で、やわらかく上品に表現したものです。「飯を食う」と「ご飯を食べる」の違いといったところでしょうか。「食」と「喰」は意味は同じですが、「喰」は食べることを強調するために日本で作られた漢字です。武士が主君に仕えて給料をもらうことは「禄をむ」ですが、牛馬が草を食べるのは「草をむ」になります。

「片喰(食)」は「片方を食べる」の意味ですが、一体何を食べたのでしょうか。答えは葉っぱの半分を食べたのです。ところが実際の葉は食べられていませんし、そもそも誰が食べたのでしょうか。何か神話や故事があるのだろうと思われるでしょうが、それもありません。

「カタバミ」は「オジギソウ」のような睡眠(就眠)運動を行います。刺激や温度、日光などの影響で、ハートの垂直線を谷折りにして葉を閉じることがあります。半分を切り取ってしまったかのような見える形になる場合もあるのです。例えるなら「開いていた本を閉じるように」といったところでしょうか。いつの間にか葉の半分が無くなっているように見えるので、それを「片方を食べられた」と表現したのです。

写真は「オッタチカタバミ」です。普通の「カタバミ」と違って上に伸びていきます。写真を見れば、葉を閉じる様子がお分かりになると思います。
カタバミ/カタバミ科/カタバミ属
写真:zassouneko

2015年11月30日月曜日

エノコログサ(狗子草/狗尾草)


●動物の尾という表現は世界共通

「エノコログサ」は漢名(中国語)で「狗尾草」と書き、穂の見た目が狗(イヌ)の尻尾に似ていると思われたからです。10世紀頃の日本では「恵沼古久佐(エヌコクサ)」と呼んでおり、その理由は中国と同じでしょう。「エヌコクサ」は「狗(犬)仔草」でしょうから、「エノコロ」の「エヌ」は「犬」だろうと見当はつきます。

では「コロ」とは何のことでしょうか。そのヒントはiMac(Leopard搭載)の国語辞典にありました。「コロ」は「子等(こら)=子供たち」の昔の方言で万葉集にも歌があると載っています。つまり「イヌコロ(犬の子たち)」です。今でも「犬コロ」って言いますね。なぜか「猫コロ」とは使いませんが。この「コロ」は親しい人に対しても使っていたようで、悪い意味(蔑み)ではなかったようです。ここで疑問なのは、なぜ「子等(コラ=コロ)」と複数形になるのかということでです。理由として考えつくのは「エノコログサ」は必ず数本がまとまって生えていますので、それが、複数の「犬の仔」が尻尾を上げているように見えるということぐらいでしょうか。

柳田國男は「エノコロ」とは犬を呼ぶ際の「犬来よ(イヌコヨ)」からきた、という説をあげています。また他の学者は「イヌコロ」が転訛(訛って)したという説を主張しています。19世紀には「エノコログサ」と呼ぶこともあったようですが、それも数多ある別名の一つにすぎず、その名前が前面に出てきたのが何時なのかは分かりません。

英語ではfoxtail grass(キツネの尻尾草)、アイヌの人たちはチャッペ(猫)と呼んでいたそうです。いずれにしても動物の尻尾です。日本では別名の「ねこじゃらし」の方が有名だと思います。仔犬の尻尾で猫を遊ばせる訳です。

エノコログサ/イネ科/エノコログサ属
写真:zassouneko

ノゲシ(野芥子)


●「芥子」は「カラシ」と読むが「ケシ」とも読む
●「芥子」と「辛子」の違い
「ノゲシ」は日本に古くからある在来種で、10世紀頃の書物にも「尓加奈(ニカナ)」と載っています。「ニカナ」は「苦菜(にがな)」で、食べると苦いという意味です。ですが他にも「苦」とつく植物はいくつかあり、つまり「苦い味の菜っ葉」というジャンルに属しているという意味になります。この「ニガナ」が「ノゲシ」になるまでには複雑な経緯がありますので順番に説明していきます。

まずは登場人物の紹介からです。
①「ニカナ(ノゲシ)」キク科の在来種。この話の主人公。
②「カラシナ」アブラナ科の在来種で昔の呼び名は「加良之(カラシ)」。その種子を「芥子(カラシ)」といい、そこから作られた調味料が「辛子」になる。
③「ケシ」ケシ科。平安〜室町時代に渡来。阿片が採れる。

「芥子粒ぐらいの大きさ」という表現はとても小さなモノという例えで、元々は仏典からきた言葉です。今は「ケシツブ=ケシの花の種」ですが、仏典が指しているのは「カラシナ」の種です。変わってしまったのには理由があります。中世になって、ある植物が日本にもたらされました。その植物の種子が「カラシナの種子」に似ているので、そちらは「ケシ」と呼ぶようになりました。「芥」は「ケ」とも読みますから、「芥子(カラシ)」と「芥子(ケシ)」になります。字を見ているだけでは混乱しますが、発音を聞けば違いは分かります。そのうちに「カラシ」「ケシ」は種ではなく植物自体を表すようになりました。

ここでようやく「ノゲシ」の登場です。それまでは「苦菜」というジャンル名で呼ばれていましたが、新たに名前を付けることにしました。「サクラ」の1つを「ヤエザクラ」と区別して命名するのと同じことです。葉の形が「ケシ」に似ており、また植物を傷つけると白い乳液を出すという共通点もあり、そこから「野に生えているケシ=ノゲシ(野芥子)」と名付けられました。つまり渡来してきた植物の名前を、もともと生えていた在来種の名前に使用したのです。

ノゲシ/キク科/ノゲシ属
写真&イラスト:zassouneko

2015年11月29日日曜日

タンポポ(蒲公英)

●「蒲公英」を「タンポポ」と読むのはこじつけ
●昔は葉を食べ、今は根をコーヒーに

今は普通に「タンポポ」と呼んでいますが10世紀頃の日本では「布知奈、多奈」または「不知奈、太奈」と呼ばれていました。漢字自体にさほど意味はなく、発音を表していると考えてください。両者とも「フチナ、タナ」と読みます。「フチ、タ」の意味はわかりませんでしたが、「ナ」は「菜」でしょう。「〜ナ」とつく植物はたくさんあり(アブラナ、ナズナ、カラシナ等)、昔はいずれも食用としていました。そもそも「蒲公英」は昔の中国からきた言葉です。つまり「蒲公英と書いてあったら、それはフチナのことである」が「蒲公英をフチナと呼ぶ」に変化したのです。ちょっと強引です。

「フチナ」が「タンポポ」になったのは江戸時代からで、そのきっかけは子供の遊びからきているという説があります。数センチに切ったタンポポの茎の両端に1センチ程の切れ込みをいくつか入れると、その部分が丸まってきます。その両端が丸まった形が「鼓」に似ているのです。そのことからタンポポを「ツヅミグサ(鼓草)」と呼ぶこともあったそうです。つまり「タン、ポ、ポ」というのは鼓を打つ際の擬音を表しているわけです。

タンポポの英名のdandelionはフランス語のdent(歯) de(of) lion(ライオン)からきています。意味は「ライオンの歯」で、葉っぱの形を表しています。上の写真を見ていただければ一目瞭然です。dentは「デンタルクリニック(歯医者)」や「デンターライオン(歯磨き)」でお馴染みだと思います。

写真は「西洋タンポポ」です。外国の「タンポポ」はライオンの葉ですが、日本のものは違います。「西洋タンポポ」は繁殖力が強いので日本のタンポポはいずれ絶滅するかもしれません。
セイヨウタンポポ/キク科/タンポポ属
写真:zassouneko