●動物の尾という表現は世界共通
「エノコログサ」は漢名(中国語)で「狗尾草」と書き、穂の見た目が狗(イヌ)の尻尾に似ていると思われたからです。10世紀頃の日本では「恵沼古久佐(エヌコクサ)」と呼んでおり、その理由は中国と同じでしょう。「エヌコクサ」は「狗(犬)仔草」でしょうから、「エノコロ」の「エヌ」は「犬」だろうと見当はつきます。
では「コロ」とは何のことでしょうか。そのヒントはiMac(Leopard搭載)の国語辞典にありました。「コロ」は「子等(こら)=子供たち」の昔の方言で万葉集にも歌があると載っています。つまり「イヌコロ(犬の子たち)」です。今でも「犬コロ」って言いますね。なぜか「猫コロ」とは使いませんが。この「コロ」は親しい人に対しても使っていたようで、悪い意味(蔑み)ではなかったようです。ここで疑問なのは、なぜ「子等(コラ=コロ)」と複数形になるのかということでです。理由として考えつくのは「エノコログサ」は必ず数本がまとまって生えていますので、それが、複数の「犬の仔」が尻尾を上げているように見えるということぐらいでしょうか。
柳田國男は「エノコロ」とは犬を呼ぶ際の「犬来よ(イヌコヨ)」からきた、という説をあげています。また他の学者は「イヌコロ」が転訛(訛って)したという説を主張しています。19世紀には「エノコログサ」と呼ぶこともあったようですが、それも数多ある別名の一つにすぎず、その名前が前面に出てきたのが何時なのかは分かりません。
英語ではfoxtail grass(キツネの尻尾草)、アイヌの人たちはチャッペ(猫)と呼んでいたそうです。いずれにしても動物の尻尾です。日本では別名の「ねこじゃらし」の方が有名だと思います。仔犬の尻尾で猫を遊ばせる訳です。
エノコログサ/イネ科/エノコログサ属
写真:zassouneko