2015年11月30日月曜日

エノコログサ(狗子草/狗尾草)


●動物の尾という表現は世界共通

「エノコログサ」は漢名(中国語)で「狗尾草」と書き、穂の見た目が狗(イヌ)の尻尾に似ていると思われたからです。10世紀頃の日本では「恵沼古久佐(エヌコクサ)」と呼んでおり、その理由は中国と同じでしょう。「エヌコクサ」は「狗(犬)仔草」でしょうから、「エノコロ」の「エヌ」は「犬」だろうと見当はつきます。

では「コロ」とは何のことでしょうか。そのヒントはiMac(Leopard搭載)の国語辞典にありました。「コロ」は「子等(こら)=子供たち」の昔の方言で万葉集にも歌があると載っています。つまり「イヌコロ(犬の子たち)」です。今でも「犬コロ」って言いますね。なぜか「猫コロ」とは使いませんが。この「コロ」は親しい人に対しても使っていたようで、悪い意味(蔑み)ではなかったようです。ここで疑問なのは、なぜ「子等(コラ=コロ)」と複数形になるのかということでです。理由として考えつくのは「エノコログサ」は必ず数本がまとまって生えていますので、それが、複数の「犬の仔」が尻尾を上げているように見えるということぐらいでしょうか。

柳田國男は「エノコロ」とは犬を呼ぶ際の「犬来よ(イヌコヨ)」からきた、という説をあげています。また他の学者は「イヌコロ」が転訛(訛って)したという説を主張しています。19世紀には「エノコログサ」と呼ぶこともあったようですが、それも数多ある別名の一つにすぎず、その名前が前面に出てきたのが何時なのかは分かりません。

英語ではfoxtail grass(キツネの尻尾草)、アイヌの人たちはチャッペ(猫)と呼んでいたそうです。いずれにしても動物の尻尾です。日本では別名の「ねこじゃらし」の方が有名だと思います。仔犬の尻尾で猫を遊ばせる訳です。

エノコログサ/イネ科/エノコログサ属
写真:zassouneko

ノゲシ(野芥子)


●「芥子」は「カラシ」と読むが「ケシ」とも読む
●「芥子」と「辛子」の違い
「ノゲシ」は日本に古くからある在来種で、10世紀頃の書物にも「尓加奈(ニカナ)」と載っています。「ニカナ」は「苦菜(にがな)」で、食べると苦いという意味です。ですが他にも「苦」とつく植物はいくつかあり、つまり「苦い味の菜っ葉」というジャンルに属しているという意味になります。この「ニガナ」が「ノゲシ」になるまでには複雑な経緯がありますので順番に説明していきます。

まずは登場人物の紹介からです。
①「ニカナ(ノゲシ)」キク科の在来種。この話の主人公。
②「カラシナ」アブラナ科の在来種で昔の呼び名は「加良之(カラシ)」。その種子を「芥子(カラシ)」といい、そこから作られた調味料が「辛子」になる。
③「ケシ」ケシ科。平安〜室町時代に渡来。阿片が採れる。

「芥子粒ぐらいの大きさ」という表現はとても小さなモノという例えで、元々は仏典からきた言葉です。今は「ケシツブ=ケシの花の種」ですが、仏典が指しているのは「カラシナ」の種です。変わってしまったのには理由があります。中世になって、ある植物が日本にもたらされました。その植物の種子が「カラシナの種子」に似ているので、そちらは「ケシ」と呼ぶようになりました。「芥」は「ケ」とも読みますから、「芥子(カラシ)」と「芥子(ケシ)」になります。字を見ているだけでは混乱しますが、発音を聞けば違いは分かります。そのうちに「カラシ」「ケシ」は種ではなく植物自体を表すようになりました。

ここでようやく「ノゲシ」の登場です。それまでは「苦菜」というジャンル名で呼ばれていましたが、新たに名前を付けることにしました。「サクラ」の1つを「ヤエザクラ」と区別して命名するのと同じことです。葉の形が「ケシ」に似ており、また植物を傷つけると白い乳液を出すという共通点もあり、そこから「野に生えているケシ=ノゲシ(野芥子)」と名付けられました。つまり渡来してきた植物の名前を、もともと生えていた在来種の名前に使用したのです。

ノゲシ/キク科/ノゲシ属
写真&イラスト:zassouneko

2015年11月29日日曜日

タンポポ(蒲公英)

●「蒲公英」を「タンポポ」と読むのはこじつけ
●昔は葉を食べ、今は根をコーヒーに

今は普通に「タンポポ」と呼んでいますが10世紀頃の日本では「布知奈、多奈」または「不知奈、太奈」と呼ばれていました。漢字自体にさほど意味はなく、発音を表していると考えてください。両者とも「フチナ、タナ」と読みます。「フチ、タ」の意味はわかりませんでしたが、「ナ」は「菜」でしょう。「〜ナ」とつく植物はたくさんあり(アブラナ、ナズナ、カラシナ等)、昔はいずれも食用としていました。そもそも「蒲公英」は昔の中国からきた言葉です。つまり「蒲公英と書いてあったら、それはフチナのことである」が「蒲公英をフチナと呼ぶ」に変化したのです。ちょっと強引です。

「フチナ」が「タンポポ」になったのは江戸時代からで、そのきっかけは子供の遊びからきているという説があります。数センチに切ったタンポポの茎の両端に1センチ程の切れ込みをいくつか入れると、その部分が丸まってきます。その両端が丸まった形が「鼓」に似ているのです。そのことからタンポポを「ツヅミグサ(鼓草)」と呼ぶこともあったそうです。つまり「タン、ポ、ポ」というのは鼓を打つ際の擬音を表しているわけです。

タンポポの英名のdandelionはフランス語のdent(歯) de(of) lion(ライオン)からきています。意味は「ライオンの歯」で、葉っぱの形を表しています。上の写真を見ていただければ一目瞭然です。dentは「デンタルクリニック(歯医者)」や「デンターライオン(歯磨き)」でお馴染みだと思います。

写真は「西洋タンポポ」です。外国の「タンポポ」はライオンの葉ですが、日本のものは違います。「西洋タンポポ」は繁殖力が強いので日本のタンポポはいずれ絶滅するかもしれません。
セイヨウタンポポ/キク科/タンポポ属
写真:zassouneko